SIMロック解除の義務化がスタートした理由
スマホを割安で使うことができる格安SIM・格安スマホを理解するために知っておきたい基礎知識の第4回目。前回は「なぜSIMロックをかけるのか?」という内容を掲載しました。
今回は「SIMロック解除の義務化」が2015年の5月からスタートした理由についてお話していきます。
前回の内容のまとめ
前回の内容を簡単にまとめると…。
・日本での携帯電話市場は、代理店が携帯端末を0円もしくは破格値で販売しても、キャリアからその契約に対して奨励金をもらえるという「インセンティブ制度」によって急激に普及・成長してきた。
・キャリアが「インセンティブ制度」によって大量にバラ撒いた携帯端末を、他キャリアで活用できないように(自分のキャリアでしか使用できないように)するために施されたのが「SIMロック」である。
という内容でした。
インセンティブ制度を導入し、SIMロックを端末に施すことで、急激に成長してきた日本の携帯市場ですが、2015年5月からそのSIMロックを解除することが義務化されます。
なぜSIMロックは解除が義務化されるようになったのでしょうか?今回はこのSIMロック解除が義務化された理由について掲載していきます。
インセンティブ制度による弊害
インセンティブのおかげで、2006年3月末時点では普及率が75%を超えるまでになった携帯業界ですが、同時にインセンティブによる弊害も浮き彫りになりはじめます。
このインセンティブの原資(もととなる資金)は、既存ユーザーから得られる通話料などの利用料金になります。消費者がインセンティブの恩恵を受けるのは新規で端末を入手するときですから、長く機種変更をせず同じ機種を使う人ほど損をする事になります。
同じ機種を長く使う人からすればインセンティブを払うぐらいなら通話料などの利用料金を引き下げて欲しいと思うのは当然の不満で、実際当時の携帯の通話料は諸外国と比べてもかなり高額でした。
更に、普及率が進んでいけば新規加入者数が減少していくことは間違いありません。その飽和状態になった中でインセンティブを出していくということは、既存ユーザーへの負担が更に増すのではという事が懸念される様になってきました。
また、この制度を利用して、新たに新規契約して端末をタダ同然で入手したあとすぐに解約し、それを機種変更の代わりに利用したりするケースも散見されるようになってきました。
端末代と通信料金の分離
インセンティブに対する懸念が拡がっていく中、総務省は2007年にインセンティブに対する改善の意見をまとめます。その結果、2008年から「端末代」と「通信料金」を分離するよう、販売方式の変更を各キャリアに求めました。
今までの「インセンティブで端末あげる(安くする)から通信はうちで引き受けます」という体制を、端末代と通信料金を分離することで、改善しようとしたという事です。
「端末代」と「通信料金」を分離するということは、単純に考えると「端末をその価値にあった価格で販売して、通信料金は端末代と切り離して契約する」ということだと思います。ですが、さまざまな諸問題や思惑により、そうはなりませんでした。
最終的には、端末代金に「割賦方式(分割払い)」を導入し、「2年単位の契約を結び、割引制度を設けて毎月の利用料金から2年間に分けて実質的な端末代の負担を減らす」という、いわゆる「2年縛り」のモデルケースがこのときに生まれました。
この結果、通信料金は下がりましたが、携帯端末料金は上がります。また、この端末料金の上昇に加え、同時期に起こった株価下落や物価高騰もあり携帯端末の買い替え需要は冷え込みをみせます。
2008年10月には出荷台数の前年同月比が5割を割り込み、国内全てのメーカーが出荷台数減少となり、キャリア別でも全キャリアが20%以上の減少となりました。この背景をうけ、三菱電機・三洋電機・日立・東芝などの国内メーカーが2010年までに携帯電話事業から撤退しています。
さて、この「端末代」と「通信料金」を分離という変化に伴い、この記事のメインテーマである「SIMロック」はどうなったのでしょう…。当然「SIMロック」は相変わらず維持されたままです。
2010年に総務省がSIMロックを解除するよう、キャリアにむけてガイドラインを策定しましたが、どのキャリアもそれにはほとんど従わずに無視している状態でした。
本当の意味で「端末代」と「通信料金」を分離するとするならば、キャリアが「端末本体」も「通信関連サービス」も消費者に提供しているという現状を打破しないと無理なのではないでしょうか。
もし「SIMロック」を携帯端末にかけることが禁止されたとするならば、購入した携帯はユーザーの判断でどのキャリアでも使用することができます。そうなれば実質的に「端末代」と「通信料金」を分離することになり、より自由な市場で消費者は携帯やキャリアを選択できるようになるかもしれません。
更に加熱するインセンティブ合戦
インセンティブによる弊害にメスを入れる目的だった「端末代」と「通信料金」の分離ですが、結局これによりインセンティブがなくなることはありませんでした。
普及率が更に進み市場が飽和状態になったことで新規顧客の取り込みが難しくなった事に加え、2006年からスタートしたMNP(番号そのままで乗り換え)制度も浸透してきて、各キャリアは既存顧客の取り合い状態になっていきます。こういった背景をもとにインセンティブ合戦は更に過熱していきます。
「キャリアを乗り換えて契約すると数万円のお金がもらえる?!」普通に考えればおかしなこの「キャッシュバック」という販売形態が横行するようになってきます。もちろんこのインセンティブの原資になるのも既存顧客の使用料金です。
また、携帯端末の費用を2年に分けて実質全額使用料金からの割引で負担する「実質0円」販売よりも上をいく「一括0円」販売も散見されるようになります。これは携帯端末を0円(無料)で販売する上に、毎月の使用料金からの割引も適用になるという、「0円携帯」時代よりもさらにインセンティブを支払うという内容。さらにこれにキャッシュバックも数万円ついてくるという、もはや意味不明といってもいいような販売形態が見受けられるようになってきました。
こうした中、2014年2月末の総務省の検討会で携帯各社の端末無償提供やキャッシュバックを問題視する意見が出ているとの報道があり、2014年3月にキャッシュバックが廃止になるという話がありました。その当時は駆け込みで更に白熱したキャッシュバック合戦が繰り広げられましたが、2015年になっても皆さんご存知のようにキャッシュバックはなくなっていません。
もう一度確認しておきますが、端末の割引やキャッシュバックといったインセンティブの原資(もとになるお金)は既存顧客の使用料金から捻出されています。
SIMロック解除の義務化
こういったインセンティブがさまざまな弊害を覗かせる背景をうけ、総務省は2015年5月より「SIMロック解除の義務化」をスタートさせました。
これは、SIMロックの解除を義務化することで、携帯端末をどのキャリアでも使用できるように促し、「端末料金」と「通信料金」を分断化することでインセンティブ制度を牽制するというものです。
またその内容は、2010年に総務省がSIMロックを解除するようガイドラインを策定した時とは違い、キャリアがSIMロック解除に応じない場合、総務省が業務改善命令を発動するというものです。法改正ではありませんが、業務改善命令を発動できるということは実質的な強制力をもった内容になります。
次回予告
2015年5月にスタートした「SIMロック解除の義務化」。それから2ヶ月以上経った現在、SIMロックはどのようになっているのでしょうか?
ひとつ例をあげてみると、2015年6月現在、5月以降にキャリアから購入したスマホでも、まだSIMロック解除できません。これはどういったことなのか…。次回は「SIMロック解除の義務化」スタート後の現状について掲載していきます。
格安SIM・格安スマホ特集|基礎知識編
スポンサード リンク